＊+さく+＊

教えて世界


ここは、関西のとあるアパート。2DK庭付き。風呂トイレはもちろん別で、洗濯機も中に置ける。そんな好物件が、4,6000円という破格の家賃であったため、焦って内見もせずに電話で入居を即決した者がいた。

その者の名前は、さく。

さくは今、そのアパートの一室で、少しの胸の痛みを抱えながらパソコンに向かっている。入居即決の理由にもなった庭には、さっき干した洗濯物が穏やかに揺れている。おかげで、さくの胸の痛みも少し和らいでいく。


1
平成●年のうだるような暑い日、ある田舎夫婦の間に体重2525gで生まれたニコニコ笑顔の娘は、さくと名付けられ、立派な箱入り娘として育てられた。物分かりが良く、大人を困らせることの少ない所謂優等生であった。
しかし、親の加護を一身に受けたこういう優等生は、大人になってから拗らせることが多いのである。さくも漏れなくその1人だ。
一人暮らしを始めたのだが、親から生き方を教わっていないさくは、ただの生活が出来なかった。驚き、このままでは駄目だ、と思ったのも束の間である。そう、2525gで生まれたさくにはニコニコ笑顔の愛嬌があったのだ。そうして、あれから結局、周りの人に頼りながら今もなおこの世界を生きている。

2
恋愛に関しては特にそう。
本人が思っているより遥かにヒロイン気質なのが痛いところだ。それは、中学生の頃から見続けている朝の連続テレビ小説の影響だと思われる。あの朝ドラヒロインのように、自分も1本芯の通った女性になるのだと。その為、何に対してもだが恋愛は特に、周りの注意を聞かず自分の意志を貫き通した。それで何があっても後悔をしていないのは、苦労をするのもヒロインの役目だから、という楽天家な性格故なのであろう。

3
実家を出るまで、親の言う通りに夜は9時に寝ていたさくは、すっかり朝型の人間になっている。大人になった今も夜9時には眠くなり、早ければ8時には布団に入ってしまう。そして、朝は6時に自然起床をする。10時間は寝たいらしい。
そんなさくでも、お酒を嗜んでいる時は夜更かしをする。両親が酒豪であるためか、さくもお酒が好きである。家で飲むこともあるが、やはり世話を焼いて欲しいさくは、1人で飲みに出ることも多い。美味しいご飯と楽しいお酒。これが、さくの生甲斐なのだ。
家飲みに於いては、半分寝ながら、ということになる。飲んで、ちょっと寝て、飲――、を繰り返しているうちに朝8時を迎えることもあるという。手塩にかけて育てた娘がこんなことになっているとは、酒豪とはいえ、さすがの両親も驚き呆れるであろう。

4
休日の朝も、さくは6時に目を覚ます。寝起きが良いので、2度寝をすることも滅多にない。しかし、2525gで生まれた愛嬌だけでしか生きていないさくに、休日を共にする友人などいるわけがない。幸いしたのは、幼い頃から1人遊びが得意で、今も1人でいても寂しさを感じないこと。寧ろ、誰かといるより楽しく休日を過ごせるのだ。
読書をしながらお酒を嗜む。これが、最高の休日なのだとか。本を読むことは、さくのアイデンティティである。読書で、さくはさくを保っているのであろう。


さくの胸には抱えている思いがたくさんある。喋りたいことがたくさんある。読書をして必死に我を守る独りのさく。
聞いて欲しい。
世間知らずのさくに、この世界を聞かせて欲しい。


今後の予定
23年8月2日水　9時半～14時半